「競争と協業」 歯科医療は奥深く、やりがいのある仕事である。しかし、昨今の歯科業界を取り巻く状況について満足している人はどれほどいるだろうか?人口減少、診療報酬の引き下げ、人件費の高騰、人材不足、歯科医院の乱立など、歯科業界を取り巻く多くの困難な状況がある。...
医療機関において最も大きな支出は、人件費である。そして、年々人件費は高騰している。人材不足や、医療の高度化に伴い、今後も人件費が自然に減ることはないだろう。むしろ、高度な知識と技術、サービスを提供できる人材には、それに報いるための十分な報酬が支払われてしかるべきだろう。しかし、その一方で、医療機関が十分な給与を支払うことは容易ではない現状がある。そこで、人件費の削減が課題として挙げられる機会が増えている。 人件費の削減とは、職員の給与額を引き下げることではない。 30万円の給与を25万円に減額することではない。正しく人件費を削減するということは、 「人間がやるべきこと」と、「人間でなくても良いこと」をしっかりと区別する 「人間がやるべきこと」は、可能な限り人間の負担を軽減すること ということ。 経済の教科書や記事では良く見かける内容である。 では、医療業界ではどのように当てはまるのか。2つ事例を挙げてみたい。 <事例1> "パソコンを買ってもらえない" 施設Aでは、手書きでカルテ以外に業務記録を記載している。そのため、記録のために職員が1〜2時間残業していることも珍しくない。施設管理者は、コスト削減のために、残業をしないように職員に指示を出したが、業務時間内は人手も足りないため極めて忙しく、記録どころではなかった。手書きは効率が悪いためにパソコンを購入してほしいと現場から何度も声が上がっていたが施設管理者側は「パソコンを購入するために15万円かかるから無理」と返答。 もしも手書きで1〜2時間が必要な作業が、パソコンを購入することで30分〜1時間に残業時間を短縮することができたならどうだろうか。パソコン購入代金15万円と、日々の残業時間と残業代の削減、職員の負担軽減という視点で考えるとき、施設管理者は、正しく人件費を削減するためにはどのような決断をするべきだっただろうか。 <事例2> "人手が足りない" 医療機関Bでは、患者の安全を守るために感染対策について注力することとなった。今まで使用器具類を使った後は洗い場で洗浄のみ行なっていたが、交差感染防止の観点から器具1つ1つをしっかりと洗浄・滅菌することで患者の安全性を担保し、医療サービス向上を図った。ところが、もともとギリギリの職員数で業務を行っていたのに洗浄・滅菌に時間を割かなければならなくなったため、現場からは悲鳴が上がった。取り組みとしては決して間違ってはいないため、職員に必要性を説いて理解を得るよう努めたが、やがて退職者も現れ、業務は立ち行かなくなった。負担が増え残業が増えたため、残った職員に割増給与を支払ったが、離職者が後を絶たなかった。 そこで、同医療機関では感染対策に関する理念は貫き、ディスポーザブルにできる器具はディスポーザブルにし、さらに使い捨てにできない器具は300万円する自動洗浄機を導入し、人が手洗いする工程を極力排除した。 医療機関にとっては大きな出費となり、以前より職員数は減ってしまったが、その後は離職者はいなくなった。さらには人が器具を手洗いしていた時と比べて職員の怪我(インシデント・アクシデント)が減っただけでなく、職員は患者サービスに注力できるようになった。結果的に少数精鋭の職員で業務が成立し患者サービスを向上できた。 どちらも筆者が関わった施設や医療機関での体験である。それぞれの職場にはそれぞれ個別の状況があると思われるが、皆様とこの経験をshareできれば幸いである。
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