「競争と協業」
歯科医療は奥深く、やりがいのある仕事である。しかし、昨今の歯科業界を取り巻く状況について満足している人はどれほどいるだろうか?人口減少、診療報酬の引き下げ、人件費の高騰、人材不足、歯科医院の乱立など、歯科業界を取り巻く多くの困難な状況がある。
共通の課題を抱えた者が多く存在する場合、協業の精神が有効である。一人(単独医院)では成し得ないことが実現可能になるからである。歯科医院は数多く存在するのに、なぜ近隣の歯科医院は赤の他人なのだろう?良くも悪くも歯医者は独立できるだけの経済力があるため、独りでも成立する。それでも更なる困難な時代に対応するため、いま協業について再考するときだと思う。
世界のチャイナタウンが発展しているのはなぜか。中華料理店の隣は中華料理店であり、更にその隣もまた中華料理店が並んでいる。それにもかかわらずなぜ破綻しないのか。ある経済学者によれば、チャイナタウンではサービスや料理は競争しつつも、食材の共同購入システムや、独自の投資などを行う文化が存在するという。歯科業界が世界のチャイナタウンから学ぶことは多い。
アフリカに伝わることわざがある。If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. 広大な大地で生きる上で直面する、大自然の脅威に晒されながらも生き抜いて来た人々の言葉である。太古より、大地を遠く旅する時に、独りよりも2人、3人で旅した方が無事に旅路を乗り切ることができることを体感的に理解していたのである。決して横並びの関係でいるという意味ではない。人々が暮らすコミュニティーの中では個人の自由と多様性を尊重しつつも、外敵が襲撃して来た際には協力して対抗し命を守る文化である。
首都圏を中心に、歯科医院が乱立している。せっかく近所にたくさん歯科医院があるのであるから、単なる商売敵ではなく、ご近所という地の利を生かして、競争と協業について共に取り組もうではないか。例えば、感染対策関連ディスポーザブル製品や治療器具など歯科用資材の開発、共同購入によるコストカット、スタッフの共有や流動化、物流、不透明な医療廃棄物の廃棄コストの改善・資源化など、スケールメリットを得ることができる。
バックヤード業務をするために専門資格をとったのではない。患者さんのために自分の資格と技術と時間を最大限使いたい。歯科医師共通の願いであることは間違いない。この点において皆が一致する時、困難な時代を克服するアイディアが生まれてくる。
現在、東京・神奈川・埼玉において同窓生をはじめ、多くの先生と前述の協業に関する取り組みを行っている。この活動の輪が広がることで、歯科業界を取り巻く環境の改善に寄与することを願う。
(大学同窓会誌への寄稿で歯科医療に関する内容より抜粋)